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一般社団法人日本下水道施設管理業協会会長 服部 博光氏 |
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国土交通省水管理・国土保全局下水道部長 塩路 勝久氏 |
わが国は、本格的な管理運営時代に入った。一方で人口減少や財政難等により、自治体リソース不足が顕在化し、都市活動には欠かせない下水道インフラの持続的運営が危惧されている。国交省では新下水道ビジョンを策定し、「持続と進化」をキーワードに、管理運営時代にふさわしい政策転換を図っている。日本下水道施設管理業協会は、処理場のO&Mという「持続」と、下水道資源の有効活用という「進化」の担い手として、管理運営時代に不可欠な豊富な知見ノウハウを有しており、有力な補完者として期待が集まる。そこで下水道行政トップの塩路部長と、本会の服部会長に持続と進化をテーマに意見を交わしてもらった。
- ■現状について
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塩路
わが国の下水道普及率は77%に達しました。現在、国交省では汚水処理100%早期達成に向けて「10年概成」という施策展開を図っていますが汚水処理はもう仕上げの段階に来ています。
言うまでもなく下水道はつくることが目的ではなく、つくったものを効果的に運用することが真の目的です。正に管理協会員の技術力が期待される時代になりました。
現在、施設・管きょ合わせると80兆円を超える下水道ストック(管きょ延長46万`、処理場数約2200カ所)が蓄積されており順次更新しなければなりません。さらに災害リスクや気象変動への備えも重要です。頻発する巨大地震や地球温暖化に伴う異常気象も見過ごせません。そういう中でも、社会経済の基盤である下水道インフラを継続的に確実に働かせることが、関係者の使命であり責務です。
一方で自治体下水道職員がピーク時に比べ約3分の2と減少傾向にあります。下水道事業を実施する自治体は約1400ですが、そのうち500を超える団体で職員数が5人以下という状況です。いかに下水道界挙げて補完体制を構築するかが喫緊の課題になっています。
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服部
下水道インフラは、1年365日24時間運転し続けることが義務づけられた数少ない社会インフラです。私が社会人に仲間入りした1977年の普及率は27%です。37年後の今日、普及率を8割近くまで押し上げた国交省の行政的指導力に敬意を表します。現在の社会経済の発展があるのも下水道インフラが全国津々浦々まで整備された成果だと感じています。
先日8年ぶりに渡欧しましたが、高速道路のパーキングにも水洗トイレは十分整備されていません。日本の下水道インフラが先進国の中でも最先端の水準にあると実感しました。私は都内に住んでいますが、家の近くを流れる多摩川は水量の約60%が下水処理水で、昨年は541万匹もの鮎が溯上するなど、大都市近辺とも思えない生態系が形成されています。
現代社会に欠くべからざる公共インフラである下水道を、今日的な課題である人口減、財政難、危機管理の中で、いかに持続していくのかが問われており、塩路部長がご指摘の通り、当協会が果たす役割が大きくなってきたと感じています。
- ■ビジョンが示す未来
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塩路
下水道は建設から管理の時代に移行する転換期を迎える一方、自治体の管理体制は脆弱化しつつあります。これまでのものづくりのみの制度設計では下水道の持続化が困難と考え、昨年7月に新しい政策体系である新下水道ビジョンを策定しました。
特に国が早急に手を打ちたいことがビジョンで示す二つのキーワード「持続と進化」のうち「持続」です。従来のビジョンは、どちらかと言うと、下水道資源の利活用に向けた「進化」を強調した内容でしたが、現状は持続を図らなければ、進化できないという危機感があります。
まずは下水道界全体の意識を「つくる」から「管理する」に変えていくことだと考えています。その実現に向けて、現在、国も新たな制度設計を検討しつつあります。
持続を果たしながら、国民に改めて下水道が地域社会の要であると認識いただく。その認識を高めるのが「進化」です。豊かな水環境の創出や、水・資源・エネルギーの供給拠点化など、下水道のポテンシャルは計り知れません。
持続の上に進化を重ねることで、国民認知も広がり、下水道界で働く関係者も仕事に誇りを感じることができ、引いては、重厚な下水道界創出が実現できると考えています。そうしたスパイラルアップによってまた持続が成立するのです。
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服部
新下水道ビジョンを見ると、膨大なストックに比べ脆弱な管理運営体制のギャップをどう埋めていくのかが示されています。民間の経営も人・モノ・カネの最適配分を常に考えています。特に冒頭、塩路部長が指摘された「人」のリソースは一番重要です。
総務省発表によると、下水道に関わる職員総数は5年前と比べても10・1%減少しており、水道の8・8%に比べ、下水道の減少はより顕著です。減少した分、民間で補えるのかといえば、当協会会員の下水道関係の処理場従業員数は増えていません。既存施設はそのままにもかかわらず、減少分のギャップはあるままです。
技術者の減少は持続の大きな障害になります。しかも育成に時間がかかるので、特に団塊の世代が退職時期を迎える、この5年間に何らかの手を打たなければいけません。一方、建設業の求人倍率が2倍超になっている中で、下水道の、特に維持管理業界に人材を呼び込むのは極めて難しい情勢になっています。
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塩路
同感です。個人的には、下水道界全体として「下水道いのち!」といったような人材がだんだんと減少しているように感じています。
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服部
特に現在は過度な市場経済が進行し、経営者には短期的な結果が求められる傾向にあります。一方で下水道は多くの公共インフラの中でも特に公共性が高い分野です。人材のキャリアアップや企業収益に対して、長期的な視点で見ていかないと、本質的な価値や魅力は見えてきません。
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塩路
いくつかの芽は出てきていると感じています。例えば、水素やビストロ下水道です。そういうことを積み重ねて下水道界のステータスを上げていくことで、結果として、優秀な人材を集めていくことが、今とるべき戦略なのです。
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服部
確かに下水道資源の利活用は、目を見張るものがあります。消化ガス発電に止まらず汚泥燃料化や下水熱回収など、従来の枠組みや分野を超えた取組みが行われています。しかも電力会社や、地域社会に直接供給する試みも盛んに行われ始めたので、一般の方にも下水道インフラの価値が理解され始めています。さらに下水道管理者は新たな収入源が得られ、それが地域持続の原資にもなります。バイオマス発電は、天候に左右されない24時間発電できる安定的なエネルギー源です。電力会社にとっても魅力的なようです。
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塩路
私が若い頃は、汚泥の処理処分に自治体は頭を痛めていたものです。処理場に都市資源が集積されていると発想を変えるだけで、都市鉱山・宝の山になったのです。
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服部
こうした流れも、前回の下水道ビジョンで「循環のみち」を明示し、政策転換を図った成果ですね。
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塩路
それと、ビジョンを裏打ちする技術開発です。下水道は本当に技術開発が重要であり、他分野に引けを取らないくらい高度な水準にあるのです。それら技術も世の中に知ってもらえれば、下水道への関心が高まるはずです。
- ■管理協の役割
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塩路
これから始まる管理運営時代は、財政と照らし合わせながら資産管理と有効活用を真剣に考えることが求められます。当然、その延長線上には改築も含まれてきます。そのときに管理協の役割が重要になってきます。新設というのは金太郎飴方式でいいというか、その方が合理的でした。しかし改築は、処理場ごとに異なる履歴があるうえに、場合によっては、下水を処理しながらの施工が求められます。維持管理と改築は切り離せない関係にあり、評価される改築とは、維持管理の知見がフィードバックされたものです。そういう意味では、管理協は、運転管理に加え、時代に合った最適な改築提案にも深く関わることが期待されています。
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服部
ありがとうございます。施設の重要度や健全度を踏まえ、経費の最小化・平準化を行うには、裏付けとなる現場データが絶対に必要ですし、それこそが当協会会員の最大の強みです。
現在、全国1400の下水道事業体が独自の維持管理を行っていますが、災害時対応や長寿命化等の取組みは、指標となるデータを全国統一的に収集・共有化した方が、自治体の実務負担も軽減されるし市民生活を守る上でも非常に有効です。
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塩路
国交省では災害時対応の観点からも施設管理状況の把握や経営改善の支援ツールとなるデータベースの構築を進めており維持管理に関するデータ等も組み込まれることとなると思います。
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服部
今後想定される社会は、人口減少が進み、行政職員の補強も見込めません。担当職員数が5人以下の約500の自治体は、民間や公的機関等で人材を補うにも限度があり、必然的に広域化という選択肢にならざるを得ないと感じています。
そうすると維持管理データの統一的な蓄積も、広域化のベースになり得ますよね。
- ■新しい官民連携
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服部
下水道は他の公共インフラに比べ、官民連携が相当進んでいる分野だと思います。例えば、処理場の運転管理は、すでに9割が民間委託化され、そのうち20%弱ほどが包括的民間委託として実施されています。
大事なことは管理運営時代に入る中で、下水道の進化・持続を図るために官民の役割を見極めて官民連携そのものをディベロップメントしていくことが重要です。
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塩路
その通りです。処理場のみならず管路についても維持管理は民間委託が進んでいます。
国が今、最も懸念していることは、歯止めのかからない自治体の技術者減少をいかに補っていくのかということです。官民連携を進化させる前に、官と民が同レベルの技術水準やマネジメント力を保有し、適度な緊張関係を築くことこそが、下水道事業の持続・進化に欠かせないと考えているからです。民間に一層活躍いただき、行政がその技術力を的確に評価させていただく。やはり適度な緊張感を互いに持ちながら仕事を進めていく姿が理想ですので、いかに行政の技術力を維持・向上させるか議論しているところです。
そうは言っても、行政側の技術者不足は結局は民間に補っていただかなくてはいけません。今後、補完が期待される分野は、政策判断・形成や業務管理などの行政が行うべき分野です。この点では、少し切り口が変わりますが、PFIやコンセッションを押し進めることにより民間企業により一層ご活躍いただくという方向があると考えています。すでに汚泥の有効利用分野でPFIは実施され、コンセッション方式も浜松市などをモデルに議論中です。やはり役割と責任を担う中で活躍していただく方向になると考えています。
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服部
民間が経営まで参画していくことは、現状、難しいと思います。例えば企業の経営形態でいう執行役員制度に置き換えると、下水道管理者である自治体が取締役会を担い、執行についてはすべて民間が行うというイメージを持っています。取締役である自治体が日々の運営状況を把握できるツール、契約手段、手続き等を新たに積み上げていけば、わが国の世界最高水準の下水道インフラを守っていけると考えています。
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塩路
執行役員制度の例えは興味深いですね。国も補完について真剣に議論しており、民間以外にも、自治体間や公的機関等による補完体制などさまざまなパターンを想定しています。
ただ、下水道は水道のように料金収入のみで経営されておらず、インフラの性質上、税金が投入されています。
現行の制度では、取締役会(自治体)で判断することになります。重要な視点は、取締役会が適切に物事を判断する能力をいかに獲得し維持するかという点です。そのような能力は、現場での長年にわたる実務経験でしか培われない部分が多いのではないでしょうか。例えば千葉県下水道公社は3処理場のうち2カ所は包括委託を行い、残りの1カ所は発注者側の技術力を保持するために直営のまま残しています。
千葉県には多くの処理場と一定程度の人材を確保しているからできたのです。それ以外の、特にリソースの少ない中小市町村での補完モデルをさらに検討していくつもりです。
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服部
自治体職員の減少に歯止めがかからない中で、民間の役割が増えるという傾向は止められません。しかし民間が取締役会を担うと、官民の緊張関係を保つことが難しくなるので民間は執行役員までです。なんとしても官側に取締役に相応しい人材の育成が必要ですね。例えば、われわれの業務でも現場と本局の評価が異なるということも起こっている場合があるのではないでしょうか。取締役の育成システムの構築は子々孫々まで下水道インフラを維持するための鍵ですね。
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塩路
海外では完全民営化という選択肢もありますよね。
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服部
その通りですが、わが国の下水道インフラは、税金投入が伴うので民間の立場から見ると非常に難しいですね。収入と支出が自分で決められないということは、民間が取締役会の中でマジョリティを占めることが難しくなります。
われわれの立場はあくまでパブリックパートナーです。成長して社会貢献していくには厳しいお客さまの目が必要です。そうしないと住民に信頼される下水道にはならないと思います。厳しい目を持つ人材が減少していくという現実をしっかりと受け止め関係者皆で知恵を絞っていきましょう。
- ■市民目線
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塩路
冒頭「管理の時代」と発言しましたが、管理の第一歩とは何かというと「よく見る」ということではないかと感じています。
私は花を育てるのが好きで、いい花の育て方はよく観察し手入れすることです。下水道も状態をよく見て適切に手当てすれば最小限の費用で長持ちします。管理協も、処理場に張り付き様子を見て必要なデータも取って、安定的な下水道サービス提供に貢献してくれています。管理協こそが一番、処理場の状態を「よく見て」いるのではないかと思っています。
今後、導入が見込まれるアセットマネジメントの基本は、現状把握であり、管理協の役割は大きく責任は重くなります。
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服部
私どもは維持管理の担い手である一方、地域で生活する市民でもあります。市民目線で言えば、処理場が停止したら本当に困るのです。
東日本大震災時でも被災地で人孔が浮上し、下水が街中に溢れ出すという光景がそこかしこで見られ、運転停止という非常事態に陥りました。
一時的な話で済めば我慢しますが、新ビジョンでいう持続を実現しておかないと、一年中非常事態が起こりかねません。危機管理で住民が一番困るのが、食料・水以上に代替のないトイレの確保だそうです。下水道が止まると水道が出せないということも国民に理解してもらわないといけません。新下水道ビジョンを具体化しないとわれわれも住民として困るのです。そのために当協会も全力を挙げてご協力しますし一緒に悩んでいきたいと思っています。
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塩路
一緒になって悩んでください。これからは、管理部門がメインプレーヤーとして活躍してもらわなくては困るのです。ぜひご協力ください。
出展:日本下水道新聞
2015年(平成27年)1月1日
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